ラストシーン

好きなPVを1つだけ挙げろと言われたら迷ってしまうが、それでも1つだけ選ぶとすれば、SUPERCARの"LAST SCENE"と答える。

名作PVと言えばケミカルブラザーズの"Star Guitar"とかBjorkの"All is full of love"あたりが挙がりそうだけど、個人的に"LAST SCENE"のPVがとても印象深く心に残っているのである。


PVは真夜中の電車が川辺を走る場面から始まる。帰路に着く酔っぱらいのサラリーマンが夜の商店街を抜け、河原でダンスを始める。パトロールをしていた警察官に注意されてしまうが、それでもダンスを止めない。ダンスは徐々に盛り上がっていき、クライマックスを迎えた瞬間、背後でSUPERCARメンバーによって仕掛けられた花火が上がる。花火をバックに、水の中を優雅に泳ぐ魚のようなダンスが展開される。ダンスが終わりを迎え、片腕をゆっくりと挙げるサラリーマン。そして、短い花火が終わる。無許可で危険物を扱ったSUPARCARメンバーは警察に連行され、サラリーマンが夜明けの中を歩いていく。ラストは始発電車が川辺を抜けていくシーンで終わる。


実に何の変哲もない、単純な筋書きのPVだ。そして、他のPVと比べ低予算で作られたことも映像から伺える。しかし、何故だろうか。とても感傷的になってしまう。

PVの一番の見せ場は何と言ってもサビの花火とダンスのシーンであろう。楽曲がサビに入ると同時に花火が上がり、ダンスは最高潮に達する。市販の打ち上げ花火とサラリーマンのダンスだけで、これほど美しい映像が撮れるのかと驚いてしまう。

短いサビ(=花火)が終わり、楽曲はアウトロへと突入する。全てが終わったかのように、物語は収束へ向かう。警察に連行され、家へと帰る。夜が明け、始発電車が走る。また、新しい一日が始まる。一日のラストシーンはこんなにも平凡で、けれども美しくて、故にとても感傷的になってしまう。

楽曲のフェードアウトと共に始発電車が川辺を走っていくシーンが一番印象に残っている。高校二年生の冬、家族が寝静まった深夜のテレビの前で見たことを今でも覚えている。